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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)818号 判決

控訴人(被告) 株式会社ヴェンティー・ウーノ

右代表者代表取締役 正木純子

右訴訟代理人弁護士 梶谷哲夫

被控訴人(原告) 破産者興人株式会社破産管財人 山田俊介

主文

一、原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二、右部分につき被控訴人の請求を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一、申立て

(控訴人)

主文同旨

(被控訴人)

控訴棄却及び控訴費用控訴人負担

第二、事案の概要

原判決事実及び理由「第二 事案の概要」に記載のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決三枚目裏五行目「合意解除して」を「合意解除させて」と、同四枚目表末行目「原告」を「興人」と、それぞれ改める。)。

第三、争点に対する判断

次のとおり付加等するほか、原判決事実及び理由「第三争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一、原判決六枚目表五行目「五五着の」の次に「合計一〇六着の」を同八行目「がある」の次に「(丙二ないし四、枝番を含む)」を、同七枚目表一二行目「証人落合」の次に「。なお、丙一の1ないし8の伝票が平成二年七月二〇日過ぎころ作成されたとする。証人村上及び原審における相被告株式会社ポーラルート代表者の各供述は採用できない。」を、同裏七行目「証人」の次に「(原、当審)」を、同一〇行目「手形が」の次に「弁済のために」をそれぞれ付加し、同一二行目「推認される」を「推認され、この点に関するデュオの林の報告書の記載も採用できない」と改め、同八枚目表二行目から同末行目までを削除し、同裏五行目「決まり」の次に「(決まった際に改めて作成された伝票の一例が丙五)」を、同九枚目表六行目「既に」の前に「原審において」をそれぞれ付加する。

二、同末行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「控訴人は、控訴人と興人との間の本件商品の取引においては、(一)控訴人が興人に供給した本件商品につき、興人において全て売却できた場合は、控訴人、興人間の売買価格を一二万五〇〇〇円とする。興人が本件商品を他に一〇万円で売ろうが一五万円で売ろうが、右売れた時点で、控訴人、興人間でも一二万五〇〇〇円での売買が成立する、(二)興人が本件商品を売却するまでは、控訴人が商品の所有権を留保するとの合意をなしていたのであり、この意味において、控訴人と興人との間の取引は、所有権を留保した委託販売契約であるとも主張するが、右(一)の点は、興人の計算において転売がなされるものであって、むしろ委託販売契約を否定する事情といえるほか、右主張を、所有権留保特約の趣旨に解するとしても、本件全証拠によるもかかる特約を認めることはできないので、いずれにしても、控訴人の右主張は理由がない。」

三、同一一枚目表一二行目「同落合、」の次に「同村上、控訴人代表者、」を、「甲一四」の次に「、一六」をそれぞれ付加し、同末行目「二月」を「七月」と、同裏六行目「として」を「のため」とそれぞれ改め、同末行目「既に」の前に「原審において」を付加する。

四、同一二枚目表二行目「被告」から同八行目「こと」までを次のとおり改める。「控訴人から興人に対し本件スーツ返還の要請があり、同社の蓮井がデュオに連絡をとったところ、興人からデュオに転売済みの本件スーツ五〇着のうち四〇着はデュオに残っていたが、一〇着については既に東京の業者に再転売されていたので、蓮井は、デュオに対し右五〇着の返還要請をするとともに、興人の安藤が東京に出張して、東京の業者に対しても右一〇着のデュオへの返還を要請してその了承を得たこと、蓮井は、八月三日に控訴人担当者同道のうえデュオに出向き、右両名において、デュオの営業部長林美幸らと話し合った結果、興人は、デュオとの間の前記五〇着の売買契約を合意解約したうえ、デュオに対し、既に受取っていた前記二通の約束手形を返還するのと引換えに、デュオより右五〇着の返還を受け更にこれを控訴人に対する右商品の売買代金債務の弁済に代えて控訴人に譲渡・引き渡すこと、デュオは、右商品を控訴人あて直接返送することの合意が控訴人、興人及びデュオの三社間に成立し、右合意に従い、デュオは、その数日後に右商品を控訴人事務所に送付したこと」

五、同一二行目の「、デュオ」から同裏一行目「こと」までを削除し、同七行目「本件スーツを」の次に「興人に、次いで控訴人に順次」を、同八行目「回収」の次に「(代物弁済)」をそれぞれ付加し、同九行目から同一五枚目表六行目までを次のとおり改める。

「ところで、民法三三三条によれば、動産売買代金債権の債務者(買主)が右動産を第三者に譲渡、引渡したときは、動産売買の先取特権を行使することができなくなり、右先取特権は、物上代位により、転売代金債権に対して行使することができることになるが、右規定は、動産取引の安全を保護するために、当該動産が第三取得者に引渡された後は、右先取特権の当該動産に対する追及効を制限する趣旨にでたものと解されるから、後に、債務者が再び右動産の譲渡、引渡を受け、その所有権及び占有権を回復したときは、右物上代位権は消滅し債権者は、再び右動産に対して先取特権を行使することができるに至るものと解するのが相当である。

そこで、本件についてこれをみると、本件スーツのうち右五〇着については、控訴人から興人に売却され、引き渡された後、興人よりデュオに転売され、引き渡された(更にうち一〇着については東京の業者に再転売され、引き渡された)ことにより、控訴人において行使できなくなった右五〇着の動産に対する先取特権は、八月三日に至り前記三社間の合意により右転売(再転売を含む、以下同じ)が解消し、興人が占有権を回復したこと(なお、前記のとおり、右商品は、デュオから興人を経ることなく直接控訴人に返送されたが、デュオは、右転売を解消する旨の合意に際し、以後興人のために右商品を占有する旨の黙示の意思表示をし、同社のために占有中の右商品を同社の指示により控訴人に直送したものというべきである。)により、再び行使できるようになったものであり、かかる先取特権の存在(付着)した右五〇着が、控訴人の興人に対する売買代金債権への代物弁済に供されたというべきである。

被控訴人は、興人が右五〇着につき転売を解消した行為は、実質的には、義務がないのに控訴人に対して担保を供与する結果となるに等しいから、破産法七二条二号及び四号の否認の対象となると主張するが、右転売自体はともかく、これを解消した行為が興人の一般財産を減少させる行為にあたるということができないから、転売の解消及び興人の占有権の回復により動産に対する先取特権が復活したとしても、控訴人に対して義務がないのに担保を供与する結果となるに等しいとはいえないので、被控訴人の右主張は理由がない。

そして、前記代物弁済当時、右五〇着の本件スーツの単価が、売買当時の単価一二万五〇〇〇円よりも増加していることはないことは、前記認定のとおりである。そうすると、興人の右五〇着の代物弁済行為は、他の破産債権者を害する行為にあたらないこと、従って、右五〇着についても、破産法七二条一号、二号、四号の否認をいう被控訴人の主張の理由のないことは、前記三に述べたところと同様である。」

第四、結論

そうすると、被控訴人の控訴人に対する請求はすべて理由がなく、これを棄却すべきであるから、これと一部異なる原判決を右のとおり変更することとし、民訴法九六条、九八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒田直行 裁判官 古川正孝 菊地徹)

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